2025年1~11月の訪日外客数は39,065,600人となり、前年同期比17.0%増と堅調な伸びを示しました。この数字は2024年の年間実績(36,870,148人)をすでに上回り、史上最高を更新しています。
しかし、この成長の裏には見過ごせない構造的なリスクが潜んでいます。11月14日、中国政府が日本への渡航を避けるよう注意喚起を発令しました。この措置は11月の後半約2週間に影響を及ぼしましたが、今後の影響は計り知れません。中国市場への過度な依存は、地政学的リスクに対する脆弱性を意味します。
欧米市場への戦略的シフトが急務
注目すべきは、欧米市場の力強い成長です。米国は前年同期比22.1%増の303.6万人と初めて年間300万人を突破し、中国、韓国、台湾に次ぐ第4の市場となりました。カナダ(18.8%増)、メキシコ(31.2%増)も北米市場全体で385万人超と大きく伸長しています。
欧州市場はさらに顕著です。イタリア(34.0%増)、スペイン(35.0%増)、ドイツ(31.9%増)など軒並み30%超の成長を記録。ロシアは99.9%増とほぼ倍増し、欧州全体では204.7万人に達しました。中東地域も56.0%増と高成長を続けています。
インバウンド事業者への提言:多言語対応が競争力の源泉
この市場構造の変化は、インバウンド関連事業者にとって大きな機会です。特に飲食店、観光地、宿泊施設、小売店などは、多言語ウェブサイトの整備が急務となっています。
欧米市場からの訪日客は、アジア市場とは異なる情報収集行動を取ります。事前のオンライン検索を重視し、英語・フランス語・スペイン語・ドイツ語などでの詳細な情報提供を求めます。多言語ウェブサイトを持つことは、もはや「あれば良い」ではなく、「なければ機会損失」の時代です。
成長著しいインド市場(35.0%増)、東南アジアの新興市場(インドネシア26.3%増、マレーシア23.1%増)も、英語での情報発信を期待しています。中国市場への依存を減らし、これらの成長市場を取り込むためには、戦略的な多言語化投資が不可欠です。
脱中国依存と市場分散化戦略
中国の渡航自粛勧告は一時的な措置かもしれません。しかし、この出来事は重要な教訓を与えてくれました。単一市場への過度な依存は、外交関係の変化によって事業が大きく左右されるリスクを抱えています。
今こそ、市場分散化戦略を推進すべき時です。欧米市場は1人当たりの消費額が高く、滞在日数も長い傾向があります。多言語ウェブサイトの整備を通じて、これらの高付加価値市場を積極的に取り込むことが、持続可能なインバウンドビジネスの鍵となります。
訪日外客数が史上最高を更新する今、表面的な数字に満足するのではなく、市場構造の変化を先読みし、戦略的な多言語化投資を進める事業者こそが、次の成長フェーズで勝ち残ることができるでしょう。
地域別訪日外客数(2025年1~11月累計)
出典: JNTO訪日外客数2025年11月推定値
2025年1~11月累計の地域別訪日外客数は、東アジアが圧倒的な2,565万人でトップを維持していますが、注目すべきは他地域の急成長です。東南アジアは443万人、北米は385万人と大きく伸長。特に北米市場は米国の初の年間300万人突破が牽引し、前年同期比で高い成長率を記録しました。欧州は204万人ですが、成長率では30%超の市場が多く、将来性の高さを示しています。
2主要地域・国の訪日外客数前年同期成長率比較(2025年1~11月累計)
出典: JNTO訪日外客数2025年11月推定値
成長率ランキングでは、欧米市場の躍進が顕著です。ロシアが99.9%増でトップ、中東地域56.0%増、スペイン・インド35.0%増と続きます。注目すべきは、中国の37.5%増という高成長です。ただし11月14日からの渡航自粛勧告により、今後の成長鈍化が懸念されます。一方、欧州主要国(イタリア34.0%、ドイツ31.9%、英国23.0%)や北米(米国22.1%、カナダ18.8%)の安定した高成長は、市場分散化の重要性を示唆しています。これらの高成長市場を取り込むには、多言語ウェブサイトによる情報発信が不可欠です。
3地域別訪日外客数シェア(2025年1~11月累計)
出典: JNTO訪日外客数2025年11月推定値
地域別シェアでは、東アジアが65.7%と依然として圧倒的な割合を占めています。しかし、この高い依存度は地政学リスクの観点から懸念材料です。中国の渡航自粛勧告のような突発的な政策変更により、事業が大きく影響を受ける可能性があります。一方、東南アジア11.4%、北米9.9%、欧州5.2%と、他地域のシェアは合計で約27%に達しています。これらの地域は高い成長率を示しており、多言語対応を強化することで、さらなるシェア拡大の余地があります。市場分散化戦略として、英語・フランス語・スペイン語などの多言語ウェブサイト整備が急務です。
4東アジア地域からの訪日外客数分析(2025年1~11月累計)
出典: JNTO訪日外客数2025年11月推定値
東アジア地域では中国が876.6万人でトップ、韓国848.5万人、台湾617.5万人と続きます。中国は37.5%増と高成長を示していましたが、11月14日からの渡航自粛勧告により、今後の見通しは不透明です。韓国6.7%増、台湾11.2%増と安定成長を続けていますが、香港は-7.2%減と唯一のマイナス成長です。東アジア市場への依存度が高い現状では、中国市場の変動が全体に大きな影響を及ぼします。リスク分散の観点から、欧米・東南アジア市場への戦略的シフトと、多言語ウェブサイトによる情報発信強化が重要です。
5東南アジア地域からの訪日外客数分析(2025年1~11月累計)
出典: JNTO訪日外客数2025年11月推定値
東南アジア地域では、タイが105.9万人でトップ、フィリピン76.9万人、ベトナム63.5万人と続きます。成長率ではインド35.0%増、インドネシア26.3%増、マレーシア23.1%増が際立っています。これらの新興市場は若年層の海外旅行需要が旺盛で、今後の成長ポテンシャルが高い市場です。東南アジア市場の多くは英語での情報収集を行うため、英語版ウェブサイトの整備が効果的です。飲食店のメニュー、観光地の施設情報、宿泊施設の予約システムなどを英語で提供することで、これらの成長市場を効果的に取り込むことができます。
6北米地域からの訪日外客数分析(2025年1~11月累計)
出典: JNTO訪日外客数2025年11月推定値
北米地域は全体で385万人と大きく成長しています。米国が303.6万人(22.1%増)で初の年間300万人突破を達成し、中国・韓国・台湾に次ぐ第4の主要市場となりました。カナダ63.1万人(18.8%増)、メキシコ18.3万人(31.2%増)も高成長を続けています。北米市場の特徴は、1人当たりの消費額が高く、滞在日数も長い傾向があることです。英語での詳細な情報提供、オンライン予約システムの充実、文化体験プログラムの紹介など、英語ウェブサイトを通じた戦略的なマーケティングが、この高付加価値市場を取り込む鍵となります。
7欧州地域からの訪日外客数分析
出典: JNTO訪日外客数2025年11月推定値
欧州地域は全体で204.7万人と、成長性の高い市場です。英国50.0万人(23.0%増)がトップ、フランス43.2万人(18.4%増)、ドイツ40.9万人(31.9%増)と続きます。特筆すべきは成長率の高さで、スペイン35.0%増、イタリア34.0%増、ドイツ31.9%増と軒並み30%超の成長を記録。ロシアは99.9%増とほぼ倍増しています。欧州市場は文化体験や地方観光への関心が高く、滞在日数も長い傾向があります。多言語ウェブサイト(英語・フランス語・ドイツ語・スペイン語)を整備し、体験型コンテンツや地方の魅力を発信することで、この高付加価値市場を効果的に取り込むことができます。中国市場への依存を減らし、欧州市場へシフトする戦略は、持続可能なインバウンドビジネスの構築に不可欠です。