全体概要

2025年1月から5月までの5ヶ月間の訪日外客数は、前年同期比23.9%増の18,140,100人となり、力強い回復を見せています。特に5月単月では3,693,300人を記録し、5月として過去最高を大幅に更新しました。

この好調な成長の背景には、東アジア市場における中国の大幅な回復(前年同期比62.9%増)、欧州・北米市場での安定した成長、そして新興市場であるインドや中東地域の急成長があります。

地域別分析

東アジア地域(グラフ1・4参照)

東アジア地域が全体の約65%を占める主力市場として、引き続き日本のインバウンド観光を牽引しています。

  • 韓国:4,053,600人(前年同期比8.4%増)- 最大の単一市場
  • 中国:3,920,300人(前年同期比62.9%増)- 最も高い成長率
  • 台湾:2,699,700人(前年同期比12.3%増)- 安定した成長
  • 香港:1,104,300人(前年同期比7.7%増)- 地震情報の影響で一時的な減速

東南アジア地域(グラフ5参照)

東南アジア市場は多様な成長パターンを示しており、特に経済成長が著しい国々からの訪日需要が急増しています。

  • フィリピン:384,900人(前年同期比14.3%増)
  • ベトナム:311,700人(前年同期比9.6%増)
  • マレーシア:295,900人(前年同期比34.6%増)
  • インドネシア:284,600人(前年同期比28.9%増)

北米地域(グラフ6参照)

北米市場は全体的に堅調な成長を維持しており、特に高付加価値観光客の増加が期待されます。

  • 米国:1,356,200人(前年同期比29.6%増)- 北米最大市場
  • カナダ:293,800人(前年同期比27.0%増)
  • メキシコ:71,600人(前年同期比34.4%増)

欧州地域(グラフ7参照)

欧州市場では特に南欧諸国の成長が顕著で、直行便の復活や増便効果が現れています。

  • 英国:237,500人(前年同期比25.2%増)
  • フランス:182,600人(前年同期比13.3%増)
  • ドイツ:178,900人(前年同期比26.8%増)
  • スペイン:80,100人(前年同期比51.1%増)

成長率ランキング(グラフ2参照)

前年同期比の成長率で見ると、以下の市場が特に注目されます:

  1. ロシア:102.4%増 – 制裁の影響がありながらも回復
  2. 中国:62.9%増 – コロナ後の本格的な回復
  3. スペイン:51.1%増 – 直行便復活の効果
  4. イタリア:42.9%増 – 羽田~ミラノ線の新規就航効果
  5. インド:39.6%増 – 新興市場として急成長

インバウンド関係者への提言 -多言語対応の重要性

今回のデータが示すように、訪日外客の多様化が進んでいます。特に以下の市場への対応が急務となっています:

飲食店経営

  • 中国語対応:中国市場の62.9%成長を受け、簡体字・繁体字メニューの導入
  • 東南アジア言語:インドネシア(28.9%増)、マレーシア(34.6%増)向けの英語・現地語メニュー
  • 欧州言語:スペイン語(51.1%増)、イタリア語(42.9%増)への対応
  • インド市場:39.6%の高成長を受け、ヒンディー語・英語対応の強化

観光地・宿泊施設関係

  • ウェブサイトの多言語化:特に成長著しい市場(中国、インド、スペイン、イタリア)への対応
  • 案内表示の充実:韓国(405万人)、中国(392万人)、台湾(270万人)の主要3市場は必須
  • 予約システム:各国の決済手段に対応したオンライン予約システムの導入

小売・お土産店

  • 商品説明の多言語化:特に高付加価値商品については、英語・中国語・韓国語は最低限必要
  • 免税対応:急成長市場からの購買力向上に対応した免税システムの整備

注目すべき新興・成長市場

【インド市場】(39.6%成長)

  • IT関連の高所得層が中心
  • ベジタリアン対応メニューの需要
  • ヒンディー語・英語での情報発信が効果的

【中東地域】(65.6%成長)

  • 高付加価値観光客が中心
  • ハラール対応の需要増加
  • アラビア語・英語での情報発信

【東南アジア市場】

  • マレーシア(34.6%増):イスラム系観光客への配慮
  • インドネシア(28.9%増):若年層中心の市場
  • フィリピン(14.3%増):英語対応で十分だが、タガログ語表記があると効果的

地域別戦略のポイント

【東日本エリア】

  • 韓国・中国からの首都圏集中を地方へ分散させる取り組み
  • 成田・羽田空港からのアクセス向上

【西日本エリア】

  • 関西国際空港を活用した東南アジア・欧州市場の開拓
  • 中国南部からの直行便増加に対応

【九州エリア】

  • 韓国市場の地理的優位性を活用
  • クルーズ船寄港増加への対応

【北海道エリア】

  • 東南アジアの富裕層向け冬季観光の強化
  • 新千歳空港の国際線拡充効果を活用

デジタルマーケティングの重要性

各市場の特性に応じたデジタル戦略が不可欠です:

  • 中国:WeChat、Weibo、小紅書(RED)での情報発信
  • 韓国:Instagram、YouTube、Naver での韓国語コンテンツ
  • 東南アジア:Facebook、Instagram、TikTokでの英語・現地語発信
  • 欧米:Google、Instagram、YouTubeでの英語コンテンツ
  • インド:WhatsApp Business、Instagram、YouTube での英語・ヒンディー語発信

今後の展望

2025年の訪日外客数は年間で4,000万人を超える可能性が高く、多様化する訪日客のニーズに対応した受入環境整備が競争力の鍵となります。特に:

  1. 言語対応の充実:最低限英語・中国語・韓国語、可能であれば成長市場の言語
  2. キャッシュレス決済:各国の主要決済手段への対応
  3. 文化的配慮:宗教・食事制限等への理解と対応
  4. デジタル活用:多言語ウェブサイト、SNS、オンライン予約システム

これらの対応により、急成長するインバウンド市場での競争優位性を確保し、持続的な事業成長を実現することができるでしょう。

出典:日本政府観光局(JNTO)訪日外客統計 2025年5月推計値

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